「介護を家族で抱え込まないで」コロナ禍でも、遠距離介護をあきらめない方法ーイベントレポート
「この夏は介護で帰省をしたくてもできなかった」
「仕事が在宅中心になったので、親をこっちへ呼び寄せようか」
「いつ何が起こるか分からないから、遠距離介護は続けられないかも」
新型コロナウィルス感染症の影響により、県外から介護のため帰省をしたくても、病院や施設が面会させてくれない。周囲の目が気になるから気軽に帰省できない…という状況も生まれているため、離れて暮らす親を介護する、遠距離介護中の方にとって『これからの親の介護をどうしよう』と考える人も多いのではないでしょうか。
コロナ禍により遠距離介護の大変さに焦点が当たりがちですが、実は遠距離介護だからこそのメリットもたくさんあります。
9月24日の夜、ゲストに年間約500名以上の方の介護相談に応じ、50万通りの親孝行の実現を考えるNPO法人となりのかいご代表の川内潤さんを迎え、遠距離介護を考えたいと全国から集まった約30名の参加者とともに『遠距離介護をあきらめない方法』について考える時間を共有しました。
イベントを通して一貫して伝えられたのは、『家族だけで抱え込まないで』というメッセージでした。その様子を一部、レポートとして紹介します。
[目次]
・高齢者虐待に至る前に、介護を支える環境をつくりたい
・介護と仕事を天秤にかけない
・家族だけで介護をするとうまくいかない理由
・離れている家族でも介護することは可能
・介護保険制度からこぼれ落ちる介護をケアする
・親の説得や人生会議、どうしたら?
高齢者虐待に至る前に、介護を支える環境をつくりたい
まずお話いただいたのは、NHK「あさイチ」などでも介護に関するコメンテーターとして出演する、となりのかいご代表の川内さん。話は、現在の活動に至る原体験からはじまりました。
川内:訪問介護の仕事をしていると、大切な家族である父や母に対して、手を上げてしまうシーンを目の当たりにすることもあります。当然、全力で止めるわけですが、『あれ、自分は止めていいのか…』と戸惑うことがあります。
手をあげるほど辛くなっているのは、納得ができてしまった。赤の他人である自分が家に入り込んで、止められるほど何も出来ていない、自分たちは何て無力な存在なんだと思いました。
この先この家族の介護に、楽しい、嬉しい、長生きできてよかった。そう思える未来はないかもしれないと気づいたときが、一番辛かったですね。
その苦い経験があるからこそ、その状況になる前に家族をサポートすることが出来ないか。いわゆる家族による高齢者の虐待を予防するために、介護の方法や家族の数だけある介護の形を広めたいと、となりのかいごを立ち上げられました。
だからこそ川内さんの関心は、介護を担う本人自身にも向けられています。続く話では、「介護と仕事を天秤にかけず、介護をする『自分自身』を大切にしてほしい」ということが語られました。
介護と仕事を天秤にかけない
川内:介護と向き合うとき、自分の仕事と天秤にかける人がほとんどです。ですが、両立はできます。むしろ、その方がうまくいくからこそ、天秤にかけるのを辞めていただきたいのです。
ある高齢の女性が、「子どもたちが色々やってくれる姿を見るのがとても辛い」と話していました。介護が必要な方へのサポートも大事ですが、この方から見えている子どもたちがどれだけ元気に過ごせているかもとても大切なんです。
どうか、自分自身の生活を大切にされていたほうが、介護がうまくいくケースが圧倒的に多いことを知っていてほしい。天秤にかけるのではなく、介護も仕事も大事にすることが親孝行につながることを知っていてください。
遠距離介護をあきらめないためには、まず何より自分たちの気持ちも大切にすることが重要。見過ごされ、後回しにされがちだからこそ、一層力を込めて強調されていました。
そして話は、「家族だけで介護をするとうまくいかない理由」に続きます。
家族だけで介護をするとうまくいかない理由
ループ図を示しながら、その理由について紹介がありました。
1.介護を家族だけで担いはじめる
介護は、誰も知らないうちに家族だけで担い始めるものです。「夜、トイレへ一人で行けない状況をサポートすること」「週末に、買い出しをサポートすること」など、誰かが「あなたのそれ、介護だよ」とは言ってくれず、気づくといつの間にか介護ははじまっています。
2.自身の生活を犠牲にして介護に向かう
次第に介護状況が進行するため、帰省の頻度が増えたり、トイレ介助で睡眠が短くなる。すると仕事後の飲み会に参加できなくなったり、中には子どもの授業参観や運動会に参加できなかったという方も。自分自身の生活が犠牲になっていきます。
3.やりすぎ介護になる
例えば足腰が悪いために、机のリモコンが取りづらいとき。家族だとつい、リモコンを取ってあげてしまいます。ただホームヘルパーとして関わる場合は、なるべくご本人ができることを維持するために一緒に取る練習をします。家族の愛情は“やりすぎ介護”になりがちで、ご本人の“できないこと”を増やすことにも繋がりかねません。
4.介護を人に頼みにくくなる
そして次第に、介護を人に頼みにくくなります。もう自分たちでは限界だ..と思ってヘルパーをお願いしようにも「まずは、介護保険を申請してください」「それは介護保険の適用にはなりません」と言われてしまうと、制度を調べ周囲との調整をする余力が残っていないために『もういい、自分でやる!』と介護を家族だけで抱え込む状況に陥ってしまいます。
5.社会との接点がなくなり、介護ストレスが蓄積しやすくなる
すると社会との接点が少なくなり、身近に相談や悩みを吐き出せる場所も無くなってしまう。相手を大事に思い、何とかしたいからこそ、できない自分への苛立ちも募り、ともすれば虐待へと繋がってしまう。
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「この悪循環へ陥らないためにも『家族だけで介護を抱え込まず』、他人に、介護のプロにお願いすることが必要です。決して自分が楽になるため、自分を最優先するために、誰かを見捨てるのではありません。」と力説されました。
離れている家族でも介護することは可能
最後には、川内さん自身が経験した遠距離介護の事例から、そのポイントやメリットが話されました。
川内:認知症の祖母が九州に、家族は東海と関東で離れて暮らしていました。それでも、週6日のデイサービスと週1日のヘルパー訪問で大きな問題は起こりませんでした。私自身も近くへ出張で行く際には、喜んで祖母に会いに行っていました。
当時、近所の人たちへ『何かあったら電話をしてください』とお願いをしてまわっていました。すると次は、隣の家の人が足腰を悪くされると『こんな状態になったので助けてくれませんか…』と、連鎖が広がっていきました。
繋がりが希薄になっている中、介護を人に頼ることは、地域の力を掘り起こす重要な地域貢献でもあります。だから、他人に迷惑をかけるとだけ思わずに、みんなが介護の状況や助けを求めやすくなることにも繋がるのだと知っていてほしいんです。
その後、川内さんの祖母は認知症の進行に伴いグループホームへ入居されたそうですが、きっと呼び寄せて介護をしていたら、会いたいと思う存在にはならなかったかもしれないと言います。
施設へ入居することは、姥捨山に捨てた、ではありません。遠距離介護だったからこそ、最期まで『優しいままのおばあちゃん』としての思い出が残ったとして、遠距離介護には『客観的に判断できる』『感情的にならない』『親が地元を離れなくて済む』…など離れているからこそのメリットがあることが紹介されました。
そして遠距離介護を継続する知恵として、近所付き合い以外に「シルバー人材センターやNPO」「配食サービス」「介護ロボット」など遠距離介護を支える仕組みやサービスの話へ。
「これらを全て活用して、どうにもならなかったから親を呼び寄せる、自分が田舎へ帰る…という人に一人も会ったことがありません」と川内さん。身内の話となると、「親が心配だから」「自分がなんとかしなきゃ」と介護にまつわる制度やサービスを全て知る前に、感情で大きな判断をする人がほとんどだそう。
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では遠距離介護を支えるサービスには、具体的にどのようなものがあるのか。介護保険外サービスを提供する「わたしの看護婦さん」のかんべたかこさんに話は続いていきます。
介護保険制度からこぼれ落ちる介護をケアする
例えば高齢の親が自宅で過ごしている場合、親の介護度に応じて訪問型、通所型などの介護保険サービスを活用することができます。しかしながら病院付き添いなど介護保険外としてこぼれ落ちてしまう介護があり、それは「家族がするもの」と考えられがちです。
例えば、『病院受診への付き添い』『日用品以外の買物や外食』『お墓参りや法事などの冠婚葬祭への付き添い』など。これらこぼれ落ちる介護を担うのが『わたしの看護婦さん』です。
かんべ:鳥取で創業して6年、現在は、東京・伊豆・愛知・岐阜・大阪・鳥取・島根・広島などでも展開しています。今、私自身は3度目の介護をしているんですが、1度目は急に振ってきたような状況でした。
出産して間もなくだったため、小さい子どもを抱えながら買物や病院付き添いをしていました。あるとき『幼稚園行事へ行きたいので、誰か代わりに病院へ付き添えませんか?』と相談をしたら『それは、家族がやるべきです』と言われてしまい。自分を犠牲に、身を削りながら、泣く泣く介護をしてとことん疲れていたというのが、私のはじめての介護経験でした。
この原体験から、介護が必要な方の突発的な体調不良をケアしたり、医療介護の専門家が病院へ付き添う「わたしの看護婦さん」は生まれました。背景には「介護の負担を徹底的にケアして、同じ理由で苦しむ人たちの助けになりたい。子どもたちが心に余裕を持って『人生最後の家族孝行』としての介護に前向きに向き合える状態をつくりたい」という思いがありました。
今の状況下において、どのような相談・依頼が寄せられているのでしょうか。
かんべ:病院付き添いでも、とても大事な話しをしたいとき。例えば、がんの告知ですが、ご本人だけで病状や治療方針の判断ができない場合、これまでは家族が来てくださいという状況も、今は県外に住む家族は感染予防の観点から『来ないでください』と病院側が断らざるを得ないケースも出てきています。
先生によってはオンラインで繋いでもいいと言ってくれるため、私たちがタブレットやPCを診察室に持ち込んで、遠方にいるお子様と私たち、先生を繋いで、告知や治療方針を決めていくこともあります。
その他には、遠方の家族が施設へ訪問お見舞いができないために「せめて顔だけは」と、見守りカメラのセッティングをすることもあるそうです。
介護のため実家へ帰省したくても帰れない。病院や施設が面会を許してくれない。そんなときに、身近な存在である「わたしの看護婦さん」が、遠距離介護の実現をサポートしています。
親の説得や人生会議、どうしたら?
続く後半は、参加者の関心や質問を踏まえながら、遠距離介護をあきらめない「介護の形」をどうつくるか、川内さん、かんべさんへ質問を投げかける形で進行しました。
Q、介護への考え方。親が外部のケアマネさんなど一切受け付けず、家族だけで介護は抱えるべきという意識をどう変えることができるか、大変苦労しています。
川内:私だったら、子どもからの説得はもう辞めましょう、と伝えます。親は子どもに対して、絶対的拒否権を持っていて、嫌だと言ったら嫌だと。
子どもが親の考えを変えるというのは、私自身も自分の親にはできません。じゃあどうするか。説得するほど親の殻は固くなってしまうので、『こういう人なんです』と地域包括支援センターやヘルパーさんへ説得からかかわってもらうのがいいと思います。
自分でなんとかしないと…の思いが強いでしょうが、ケアマネジャーや地域包括支援センター、ヘルパー、デイサービスの職員は、介護が必要なご本人との信頼関係づくりも業務のうちの一つに入っています。
私が認知症専門のデイサービスで働いていたとき、病状の認識がない方へは『介護が必要だから、認知症だから』とは言わずに、『この方がどうやって心地よくサポートを受けてくれるか』をあの手この手を考えて伝えていました。それを考えることが介護のプロの仕事なので、説得を試みるところから依頼することも選択肢の一つです。
Q、介護が必要な親と離れて住んでいる方は、現在のコロナ禍でどのように遠距離介護をされているかお伺いしたいです。
かんべ:色んな都道府県の施設や病院で2週間ルールがあって、県外から帰省する子どもたちが親御さんと接触することで、ヘルパーや訪問看護師、病院、クリニックを2週間利用できないことがあります。見舞いや付き添いを2週間辞めてほしい、と言われた方もいらっしゃいます。
どうしても帰らざるを得ない方もいて、実際に2週間サービスが止まってしまうこともありました。
癌の告知や治療選択のような、家族の付き添いが必要なときに県外から帰省できないため、病院へ一緒に付き添い、その様子を知らせてほしいという依頼が立て続けにありました。一つの方法としては、上手く地域や私たちのような介護サービスを活用することだと思います。
川内:これまでの相談ケースでは、実家へ帰れないなら、自分のところに呼び寄せようという方もいらっしゃいます。ただその選択は、家族で介護を抱え込むリスクが高くなってしまうため反対をすることが多いです。
とにかく、リモートでできること、自分たちが帰れなくてもできることを探っていこうという話をしています。隣近所やヘルパー、かんべさんのサービスもそうですが、帰らずにできることを改めて考えてみませんか?と。『毎月必ず帰らないと行けないんです!』という人の多くは、この機会にやっていることの棚卸しをすると、実は帰らずに済むケースがほとんどでした。
帰ったことが無駄や徒労だったのではなく、改めて親との距離感を見直すいい機会にしてもらえたらありがたいです。
Q、人生会議、どうやって切り出す?
川内:『介護が必要になったらどうするつもりなの?』という聞き方は、言葉では入っていませんが、『迷惑になるからどうするの?』という聞き方に聞こえてしまいます。
当たり前ですが、介護をうけるために長生きをするわけではありません。その人が、何を大事に生活をしたいのかを中心にして、大事にしたいことをなるべく維持するために必要なサービスを入れていくのが介護の考え方です。
『これからの生活、どんなふうに過ごしてみたいと思う?』と“want(何がしたい)”を聞いていく。その時まず大事なのは、聞く自分自身がこの先10年、どうしてきたいか?です。『わたしはこうしていきたい。父さん母さんはどうしたいと思っている?』と聞いていただけると、『もう一度バイクに乗りたい』『稲刈りをしたい』『世界を歩いて巡りたい』という未来への思いが出てきて、いい話ができる人が多いですね。
かんべ:最近特に、告知や治療選択に付き添うことが増えています。『人工呼吸器をつけますか?胃瘻をつけますか?』と、医療の現場ではまず本人自身の意向が問われるんです。『お父様、お母様はどうしたいと考えていましたか?』と。その次に、家族の意向を聞かれるので、事前に意思確認をお願いしますと言われます。
急に倒れて呼吸器が必要なときもありますし、救急病院で過ごしたあとに、施設へ移動するときも、本当に施設がよかったのか、自宅がよかったのか。選択を迫られるんですね。
親の意向を直接聴くことが出来なければ、家族が判断しなければなりません。何がよかったのか、望んでいたのか、本当にその選択で良かったのか。本人の思いを聞けないまま選択しては、残された家族が一番後悔をしてしまいます。残された家族はその選択を抱え込み、何十年も悔い続けることがあるんです。だから『今の気分はどう?』『どんなことをしていきたい?』からでも、お父さんとお母さんとは機会をつくって話をしてほしいですね。
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イベントを通して一貫して伝えられたのは、「介護を家族だけで抱え込まない」という考え方でした。身近な存在である家族だからこそ、私がやらねばと重く背負いすぎてしまっていませんか?
質問全てにお応えしきれなかったのですが、終了後も延長してお二人と話す参加者の姿も見られるほど。「介護」について話す場の貴重さを実感する機会になりました。
最後に、川内さん、かんべさんから参加者みなさんへのメッセージを紹介します。
かんべ:介護保険外のサービスは、まだまだ世の中で珍しいかもしれません。ですがこれから先、混合介護と言われる公的保険とそれ以外のところが合わさって介護が成り立つ形が当たり前になるはずです。その時、介護をお隣さんが手伝うかもしれないし、私たちのような民間企業が手伝うかもしれません。いずれにしても、介護を家族で抱え込まない、チームで行うことが必要だと思っています。
それが自分のためでもあり、残される子ども、孫のためにもなると信じています。今までの常識にとらわれずに、介護の形をつくっていきましょう。みなさんありがとうございました!
川内:介護の学校へ通っていた時、最初に言われたのは『親の介護を自分でやらないように』ということでした。最初は何を言っているんだ…と思いましたが、介護の現場に入ってみて納得できました。
介護の場面は、親子の距離が0と言えるぐらいに近づきます。親の見たくなかった姿を目の当たりにすることになりますが、介護者として必要なのは、常に自分の気持ちを冷静に持ち続けること。頭はクールで、心はあたたかくしなさいと。自分の親だったらどうでしょうか。何度も同じことを言われたり、トイレに連れて行ったり…。頭もホットになってしまって感情的になり、適切なケアは出来なくなってしまいます。
どうか、家族だからやらないといけないと思わずに、自信を持って手放して、自信を持って気を楽にしてくれたらいいと思っています。
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いかがでしたでしょうか?少しでも介護の負担が軽くなったり、読まれた方自身の望む介護の形が見えてきたら嬉しいです。今後も「遠距離介護をあきらめない方法」について考えていきたいと思います。
「となりのかいご」では、介護にまつわる情報発信や相談支援を行っています。また「わたしの看護婦さん」では、病院付き添いや買い物介助など、遠距離介護でこぼれ落ちる介護サービスを担っています。
気になる方はぜひ、下記の情報をご覧になったり、問合せをしてみてくださいね。
NPO法人となりのかいご:https://www.tonarino-kaigo.org/
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