【2週間の壁】コロナ禍でも、遠距離介護はIT機器と人の手の融合で乗り越えられる!|イベントレポート
「2020年は、1年中コロナに振り回された」
「実家に帰省することが夏からできていない」
新型コロナウイルスの感染拡大がますます深刻化してきたこの冬、いつもであればお正月は実家で過ごすという方も、帰省することを断念された方が多かったのではないのでしょうか。2020年は新型コロナウイルスに振り回され、介護をされている方も悩みが増えた1年だったと思います。
その中で今回は、感染者が多い地域からの来訪者と接触があった場合、介護サービスが2週間停止される問題にスポットを当て、実際にその状況を目の当たりにしながらも、東京ー三島(静岡県)間でIT機器の導入などを駆使し遠距離介護を実践されている、フリーライターの宇山 公子さんをお迎え。「わたしの看護婦さん」代表の神戸、進行の藤吉とともにお話をお聞きしました。その様子をレポートします。
[目次]
・東京-三島間での遠距離介護の始まり
・2週間の壁とは?
・スマートスピーカーは、遠距離介護の必須アイテム?!
・地域コミュニティ(人の手)とIT機器の融合
・PCR検査陰性でも、帰省して親には会えない?
東京-三島間での遠距離介護の始まり
初めにお話しして頂いたのは、宇山さんの遠距離介護の実体験について。進行の藤吉との対話形式でお話しいただきました。
宇山:今年(2020年)の1月に父が入院、3月に他界し、母が一人になったため、遠距離介護(静岡の三島ー東京)が始まりました。4月には母が転倒し、もともと骨粗鬆症を患っていたので、悪化してしまい動けない状況になりました。
初めの想定よりも介護の負担が増えたため、介護保険の利用を6月から開始する予定でした。しかし、その頃に東京は新型コロナウイルス感染者の数が増加。東京在住の私と接触している母は、介護保険適用の訪問介護サービスを受けることができなくなったのです。
ここで2週間の壁にぶち当たり、当時の状況をまとめた記事を書きました。
(参考:東京からの遠距離介護、「2週間サービス利用停止」の壁と負担が激増する家族の叫び(週刊女性PRIME) – Yahoo!ニュース)藤吉:6月に利用を断られてから、どのようにして対応可能な事業者を見つけられたんですか?
宇山:ケアマネージャーに相談し、2週間待たずとも利用できるデイサービスを見つけました。母が一度通ったことがあり、母のことを覚えていてくれたから見てくださったんだと思います。
実際にコロナ禍での介護の現状を目の当たりにして、2週間の壁という問題に多くの人が困っている現状を知った宇山さん。話は、続いて、2週間の壁とはどういうものなのか?に続きます。
2週間サービス利用停止の壁とは?
2週間の壁とは、新型コロナウイルスの感染が多いところから来た家族などと介護が必要な方が接触すると、介護サービスが2週間停止してしまうというものです。実際、この問題は全国的にも多いのでしょうか?また、病院や介護施設の現状について、神戸さんにお答えいただきました。
藤吉:2週間サービス停止というのは多くの施設で行われているんでしょうか?
神戸:鳥取をメインとし、また九州なども含めてお話しすると、2週間ルールを行っている施設は多いです。特に厳しいのは病院側です。鳥取県では、県独自でルールが決められており、最も感染が多いエリアの方は、付き添いなどはできません。付き添うためには鳥取に2週間滞在し、無症状ならば付き添うことができるという状況です。
藤吉:だとすると、仕事や子育てをしている人たちは、2週間以上も帰省する時間を確保するのは難しいですよね。
神戸:そうですね。ただ病院側も明確なルールがないために、どうしても家族との面会が必要な場合などにどう対応すべきか、もどかしさを感じていると思います。
実際多くの施設が、感染拡大防止を理由に2週間ルールを設けています。ただ遠距離介護中の家族の場合、親の介護の全てを介護保険で賄うことは難しく、病院への付き添いなど家族の出番が必要なシーンも少なくありません。
2週間サービスが利用停止されるリスクがある中、宇山さんはどのように遠距離介護を行ったのでしょうか。
スマートスピーカーは、遠距離介護の必須アイテム?!
藤吉:2020年6月以降の経過についてお聞きしてもいいですか?
宇山:夏に新型コロナウイルスの感染者数の増加が落ち着き、一息ついたところから、秋にかけて東京での仕事が増えました。東京にいることが増えて、母の傍にいることが難しくなったんです。
母の様子が分からないことが不安だったため、ケアマネージャーに母の安否確認をする方法を聞いたんですが、夜の安否確認はできないと言われてしまいました。近くに親戚もいますが、何度も何度も頼むこともできません。
そこでアマゾン アレクサの利用を開始しました。母はIT機器がまったくだめなんですが、ボタン操作をしなくても、私から話しかければ勝手に起動してくれます。母はカメラの位置が分からずに、たまに母が映らないときもあるけれど、母の声を聞くことができる。性能も良いため、母が生活している音を聞き取ることができ、遠くからの見守りにとても役に立っています。
アレクサなどのスマートスピーカーを音楽再生に活用していても、遠隔見守りなど介護に活用している人はまだまだ多くないのではないでしょうか。宇山さんの熱弁に、参加された多くの人もアレクサに興味を示されていました。
設定さえしてしまえば、声だけですべて操作できてしまうスマートスピーカーですが、このような操作性について、神戸さんはその大切さを訴えます。
神戸:IT機器の操作性は、とても大事なんです。もちろん慣れてくるとスマホやタブレットも使えるようになりますが、ずばり申し上げて、今覚えていても年を重ねるごとに操作を忘れてしまいます。ですので、子ども側、家族が簡単にサポートできるものを準備されるのがいいですね。
「静岡県で“わたしの看護婦さん”のようなサービスは無いですか?」という宇山さんに対して、遠隔見守りにIT機器導入を勧めたのは神戸さんだったそう。アレクサなどを早期導入することは遠距離介護の体制を整える上でとても大切だと話します。まだまだ介護は大丈夫!と思っていても、介護が必要な日は突然訪れます。介護も準備が肝心です。遠くから見守る体制をつくるために、アレクサなどスマートスピーカーの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
さらに話は続き、12月時点での宇山さんの遠距離介護の状況についてお聞きしました。
地域コミュニティ(人の手)とIT機器の融合
藤吉:遠隔での見守りを行いながら、どうしても人の手が必要なことはどう対応されていますか?
宇山:アレクサは本当に活用していて、導入してよかったと思っています。機器が一切使えない母の安否確認ができるのは良かったと思っています。
けれど、アレクサは機械なので、母に万が一のことがあっても助けてくれません。だから地域のコミュニティが大事になってくると思います。「東京から来た人」というだけで、地方の人たちからは白い目を向けられることもあると聞きますが、私の場合は、母の家の周りの人も、私たちの状況を把握してくれているためか、白い目を向けられたことはありません。
母は一人で外に出ることはできませんが、近所の人が食事のおすそ分けを持ってきてくれるときなどに、会話もできています。遠距離介護にはIT機器も十分活用できますが、こういった地域のコミュニティがあるかどうかで、安心して介護できるかはかわってくると思います。
宇山さんのように、地域コミュニティとアレクサなどのIT機器が融合した介護環境は、これからの時代を象徴するような形だと感じます。ですが、お願いし合える関係が地域内にある状況も、今では珍しくなっているのではないでしょうか。それぞれに状況が異なるからこそ、家族の数だけ、最適な介護の形があります。
地域コミュニティとIT機器、「わたしの看護婦さん」のような民間介護サービスとの組み合わせ…など、選択肢の中から自分たち家族に必要な形をつくっていくことが、前向きに介護と向き合う上で大切だと思います。
続いて神戸さんに、コロナ禍の介護の現状をお話しいただきました。
PCR検査陰性でも、帰省して親には会えない?
神戸:以前「PCR検査を受ければ、県外から帰省して面会はできますか?」という質問を頂き、実際に確認してきました。
結論としては、PCR検査の陰性だったとしても、統一されたルールが医療・介護現場ではないのが現状で、できれば2週間は会いたくないというのが答えです。
その方は、唾液検査を受けたそうですが、検査結果による後の損害を検査会社は一切負わないという契約になっています。また鳥取では県ごとに感染注意地域、感染流行警戒地域などのレベルに分けていて、それを元に病院・介護施設も対応を決めているのが現状です。しかし、病院によって対応は異なっており、県外からの来訪者とは絶対に面会ができないところもあれば、特例の条件下では面会ができるところもあります。
私の会社では介護保険内外どちらのサービスも提供していますが、両方とも2週間の間に県外から帰省した家族と会っている利用者様にもサービスを提供しています。、それは、介護というものは止めることができないものだから。これが、コロナ禍における介護の現状ですね。
藤吉:PCR検査を受けても、結局は2週間待たなければいけないのであれば、一体どうしたらいいのかともやもやするところだと思います。
神戸:おっしゃる通りです。地域によっても、利用されている事業所でも全く対応が異なるので、ケアマネージャーさんを通して2週間たたずとも対応可能な介護サービスを探すのがよいかと思います。
ここまでの要点をまとめると、
・PCR検査を受けたとしても、県外来訪者との面会OKの判断材料にはならない
PCR検査の結果が陰性でも、県外来訪者と面会をしてもいい、という証拠にはなりません。
・独自のルールを決めて、2週間を待たずとも介護サービスを提供する地域・事業所がある
これは、東京や大阪の事業所に多く見受けられるようです。神戸さんの言葉を借りれば、介護というものは止められない。だからこそ、統一した見解がない状況でも、高齢者やご家族にとって必要な介護サービスを届ける事業者は存在します。各地域、施設の判断については、ケアマネージャー等を通じて問い合わせしてみることをお勧めします。
と、まだまだ現状としては、PCR検査を受けても「2週間ルールの壁」にぶち当たる状況です。そのため遠隔での見守り体制を整えたり、独自判断で対応してくれる事業者を探したり、わたしの看護婦さんのような介護保険適用外サービスを活用することが、選択肢として考えられます。
最後に、宇山さん、神戸さんからそれぞれ、コロナ禍の遠距離介護において大切なポイントをお話いただきました。
宇山:今年は数えきれないほど実家に帰っていますが、それ以前は実家には年に数回帰る程度だったので、私自身、近所の人たちのことをあまり知りませんでした。しかし、近所の人と挨拶や会話は交わすようにしていました。実家に帰ることが多くなってからは、近所の人たちとたくさん話したり、一斉清掃などにも参加しました。これは地域のコミュニティ、繋がりの力が大切だと考えているからで、自分から近所の方へ近づいていくような関わりをしていました。
神戸:介護の現場は、有資格者でありながら現職で働いていない方がとても多くいらっしゃいますいのが現状です。担い手不足が深刻化していく中で、IT機器やロボットも活用しながら、人の手が必要なところは人の手に、そうやってうまく共存していく必要があると感じています。
新型コロナウイルスにより介護業界も変わりつつありますが、今は介護の担い手不足が深刻化した時の予行演習かもしれません。「介護は家族がすべき」「人の温かみがあってこそ」と言われていた時代から、わたしたち自身の介護に対する意識や常識を変えていかなければいけません。
未曾有の事態である新型コロナウイルス感染拡大をプラス思考でとらえ、介護の形・常識を前に進めることができればと思います。
*
いかがでしたでしょうか。コロナ禍の遠距離介護に悩み、苦しんだ方々はとても多いと思います。
宇山さんの実体験はコロナ禍における遠距離介護を象徴するエピソードでとても興味深く、これからの介護の形を考える参考になるものです。
遠距離介護をIT機器を利用して乗り越えるように、「介護は家族がするもの」「直接会わないとできない」というような常識にとらわれず、わたしたち自身の介護に対する意識も変化させることが大切です。
この記事を機に、自宅にスマートスピーカーを導入たり、ケアマネージャーさんに相談したり、「わたしの看護婦さん」に相談をしていただいたり、決して介護を一人で、家族だけで抱え込む環境にならないよう、前向きに介護と向き合える環境づくりに役立ててみてください。
このレポートが少しでも、遠距離介護をされているみなさんの参考になれば幸いです。
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