未来の介護をもっと明るく。介護保険外サービスにイノベーションを起こしたい
日本は超高齢社会。日に日に、介護への関心が高まってきていると感じます。
介護のニーズが高まる一方で、偏ったイメージにより敬遠されやすい介護業界ですが、高齢者の方を支えている人たちがたくさんいます。そんな介護・医療従事者はときに、今の制度やサービスだけではケアしきれない場面にたびたび遭遇します。そんなもどかしさを解消するべく、「家族のような他人」を目指してパワフルに突き進む、山瀬 純さんにお話を伺いました。
利用者の方に寄り添い、地域を活性化する「SOI STANCE」
ーー山瀬さんは普段どのようなお仕事をされていますか?
今は、就労継続支援B型と自立訓練をしている「SOI STANCE」という事業所で働いています。主な業務内容は障がい福祉サービスの提供です。去年の夏まで約8年くらい高齢者介護に携わっていたので、その時の経験を活かしながらお仕事させていただいています。
ーー就労継続支援B型と自立訓練の具体的な内容を教えてください。
就労継続支援B型では、障がいを持った方に仕事の訓練をしていただき、それをサポートしています。ここでは、将来的なご自身の一般就労を目標としており、利用者様に最適なトレーニングを提供しています。一方で、自立訓練では障がいをお持ちの方に向けた機能的または身体的なリハビリを実施しています。例えば、高次脳機能障害の方だと計算が苦手だったり、思うように言葉を発するのが難しかったりします。そういった方が、できる限り自分の意思や力で生活ができるようサポートすることが目的です。
ーー「SOI STANCE」について詳しく教えてください。
「SOI STANCE」では就労継続支援B型向けと自立訓練向けの事務所を2つ構えています。前者では、利用者の方と一緒にカフェの運営をしています。実際に一般のお客様の接客をしてもらったり、料理の盛り付けをしてもらうといったように、カフェの運営を通して仕事の訓練をしていきます。
一方で、後者では「だがしや」の運営をしています。ここでも実際にお客さんの接客をして、お菓子の値段を計算してもらい、袋詰めをするといった一連のリハビリを実施しています。このとき、お会計は計算の練習になりますし、麻痺がある方だと袋にお菓子を入れる作業も体の訓練になるんですよね。また、「だがしや」は地域の子どもたちや、懐かしさを感じてもらった大人たちに来ていただいている状態です。そういったところで、地域のいろんな方々が触れ合える場をつくる目的はとても大きいと感じています。
ーーカフェや駄菓子屋は他にはない魅力だと思います。実際に働いてみた利用者の方からはどのような声が集まっていますか?
本当にたくさんのお声を頂いています。今までは人と触れ合うのが苦手で、接客一つにしても慣れるまでにすごく時間がかかる方もおられます。最初にお仕事をし始めた時は誰もが緊張するものです。それを乗り越えていくことで、だんだんとやりがいも生まれてきて、「もっと接客をしてみたい」と言われる方もいらっしゃいます。
料理の作業でも、なかなか腕が利きづらくて、最初は野菜を切るにしても少し切るだけでいっぱいいっぱいなんてこともあります。それでも諦めずに挑戦し続けた結果、だんだんと切れるようになっていくんですよね。そうなると、「楽しいね」ってお仕事ができるようになっていきます。もちろん、できないことがあると落ち込んじゃう方もいらっしゃいます。僕は、それでもぶつかって、支えて、一緒に乗り越えての繰り返しなのかなと思っています。
おじいちゃんおばあちゃんって、本当に愛おしいんですよね
ーー介護業界で働くことを選んだ経緯を教えてください。
もともと地元で働きたいと思っていて、就活中にいくつか受けた会社の中にたまたま社会福祉法人があったんです。でも最終的にそこに決めたのは、おばあちゃんが「あんたはそこが向いとるけん、そこにしてみんか」って言ってくれたことがきっかけでした。子どものころからお手伝いをして喜んでもらうのが好きで、超が付くほどのおばあちゃんっ子だったんです。それもあって、「じゃあちょっとやってみるか!」と思って決めました。
それと、大学時代はスポーツ系の専攻だったんですよね。その時に、ジムのインストラクターや介護予防の体操について勉強をしていたので、それまで勉強してきたことと繋がるのかなって考えたのも一つの理由です。
ーー介護のやりがいを教えてください。
一番のやりがいは、人様の人生に大きく関われるところだと思っています。介護って全くの他人が、100年近く生きてきたおじいちゃんやおばあちゃんの最後の数か月にいきなり関わることもあるんですよね。その利用者さんだってまさか自分が最後に知らない人に見られるなんて、思ってもみなかったと思います。そうやって奇跡的なことが重なって、自分が最後を看るんだってことには、やりがいもそうですし、責任もとても感じています。
自分が誰かの人生の最後に関わることで、何ができるかなってよく考えるんです。そんなとき、ただお手伝いするだけじゃなくて、生活に豊かさとか彩りを付け加えてあげられるのも、自分だと気づくんですよね。だからこそ、介護に携わっている身として利用者の方に「自分のできる精一杯の介護をしよう」っていつも意識しています。
ほんと、おじいちゃんおばあちゃんってみんなかわいくて、友達みたいになれるんですよ。一緒に出掛けたり、お寿司を食べに行ったり、介護って本当にいいですよ (笑)
ーー山瀬さんが担当した利用者さんの中で印象的だった出来事はありますか?
僕、一回だけ息を引き取る瞬間に立ち会ったことがあるんです。そのときは、ずっと手を握って2人で過ごして、ゆっくりと時間が流れていって。その経験が一番印象的でした。僕は父親をがんで亡くしていて、そのときも一緒に見てはいたんですが、またちょっと全然違う感覚なんですよ。自分が全然知らないおばあちゃんが、自分に手を握られて亡くなるみたいな。「ああ、こうやって亡くなるんだ」とか色々頭の中を駆け巡って… 感動というか、神秘的というか、すごい心に残っています。
様々な介護の実践に触れる、遠距離介護支援協会
ーー遠距離介護支援協会に入ろうと思ったきっかけはなんですか?
もともと「わたしの看護師さん」代表の神戸さんと出会うまではその協会の存在を知りませんでした。あるとき、僕が介護保険外サービスをしたいなと思ったときに神戸さんに相談させていただいたんですよね。そのときに、お話を聞いていく中で遠距離介護支援協会について紹介していただいて、入りました。
ーー遠距離介護支援協会では具体的にどのようなことに取り組んでいますか?
協会のメインのコンテンツとしては月に一回の定例会だと思います。毎月、外部講師の方や遠距離介護支援協会のメンバーさんがセミナーや事業紹介をしてくれるんです。それが自分の中で一番勉強になっていると思いますね。いろんな方がいらっしゃって、足つぼを専門にやっている方や、腸もみ専門の方など。みなさんのお話を聞くことは自分を成長させてくれる良い機会を与えてくれるんです。介護の世界にいる自分が似てはいるけど違う業界の方と交流が増えると、情報収集にもなりますし、とても勉強になっています。
もっと自由に、笑顔あふれる介護を
ーーこれからやってみたいことについて教えてください。
現在、本業で障がい福祉サービスの方で働きながら、休みの日を使って新しい介護保険外サービスの始動に向けて動いています。今は、それを事業として形にしていくのが一つの目標です。将来的には、介護職の働き方の選択肢を増やす手助けをできたらいいなと考えています。
今の介護業界では給料が上がりにくかったり、新しいサービスが出てきてないことが問題だと考えています。それをもっと自由にできる環境を作りたいです。そのためには、第一に利用者さんに喜んでもらう必要がありますし、経営者としての心構えを確立することが大切です。だからこそ、自分がもっと勉強してビジネスとして回せるような介護サービスの設計をしていこうと思っています。難しいとは思っているんですけど、それでも自分ができる範囲で地域と介護、医療福祉に携わる方の参考になればいいなと思っています。
ーー山瀬さんにとって、介護保険外サービスとはどういうものなのか教えてください。
介護保険外サービスは、一言で言ったら「超自由」みたいな感じです。主に高齢者の利用者さんと一緒にフランクに関われる場所だと思っています。保険内のサービスで大きな組織の中にいると、できなかったりすることもたくさんあります。だからこそ、一歩そこから出て、自由に動けるところが一番のメリットだと考えています。
僕が好きな表現で「家族のような他人」という言葉があります。これが一番いい例だと思っていて、家族に頼めないことや全くの他人に頼めないこともあると思うんです。その間にうまく立つことで、「この人だったら頼みたい」と思ってもらえる関係性が築けていけたらいいなって思っています。
ーー新しく介護業界に飛び込んでいこうとしている若者に伝えたいことはありますか?
入ると、「なんでだよ!」って思うことは結構あると思います。その時に、もういいやって腐ってしまわないで欲しいです。あなたがやろうとしていることは世の中に必要なことだし、素晴らしいことだということは忘れないで欲しいと思います。
目の前の問題がなぜ起こっているんだろうとか、そもそもこれってどういう制度のもとに成り立っているんだろうとか、上の人たちはどうしてこういうことを言ってくるんだろうとか、沢山考えることが大切だと思います。これでもかと情報を集めて勉強をしていくと、必ず道は開けていきます。なので、しっかり自分の頭で考えて、行動して、やりたいことをやりたい形で、介護を楽しんでください。
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